どうしても、私は、私の結末が欲しい
ひげひろでサブヒロインとして活躍していた三島の明確な失恋話。
そう、失恋ストーリー。
・・・わざわざ、1巻かけて失恋の話をするのは珍しい気がしますね。特に私も含めてラノベなどの男性読者は「選ばれなかったサブヒロインはいつまでも主人公のことを思っていてほしい!」という大層身勝手な思いを持っているものなので、ヒロインの明確な失恋話は受けが良くないんじゃないかなとも思います。
しかし、今作を読んでしっかりと物語を終わらせてあげることの優しさを感じました。・・・そりゃ、キャラの幸せを考えたらきっぱりと次の物語(恋)に向かった方がいいよね・・・。
それでも、やっぱり、複雑ですが!
超ネタバレありです。
「私の物語」になんて興味が無かった三島。彼女は自分を他人の物語の端役のように振舞うことに慣れていました。仕事で言えば戦力とはならず、それでも周りからは「しょうがないか」と諦められる存在。他人には深く入り込まず、他人からは入り込ませない。自分の物語なんてものを意識することもなく淡々と流れていく生活を送っていました。自分の物語になってしまうと傷つく可能性が増えてしまうからということもあったのかな?
そんな三島を仕事ができるようになるまで付き合った吉田。吉田としては「自分の部下が仕事ができないで済ますわけにはいかない」という想いからでしたが、その行動は三島に三島自身の存在を強く意識させます。決してタイプではない吉田が自分に真正面から向き合う行動は、彼女を無理やりにでも物語のヒロインにさせました。
しかし、その物語がハッピーエンドにならないことは三島自身が良く分かっていました。アピールしても気づかない吉田。彼が意識するのは三島よりも後藤や沙優。自分が女として見られないことを強く意識させられて、この物語にはっきりとした結末を突き付けられることを恐れます。
しかし、三島の想いを知ってしまった吉田は三島が後に引きずることを想像し、しっかりとエンディングを見せることにしました。三島が次の物語に行けるように・・・
吉田に振られた三島はしっかりと物語に区切りをつけられたことに誇りを持ちながら、失恋の哀しさにカフェで泣いていました。そこに大学生がハンカチを差し出してくれるという非日常な場面が出てきます。ここで三島はお礼としてその大学生の分まで会計をすませるという、映画の登場人物のような行動を見せました。これは彼女が次の「私の物語」に向き合い、生きていこうとする覚悟にも見えました。
傷つくことを恐れるために、自分が中心の物語を避けようとする気持ちは凄く分かるので、読んでいて三島に凄く感情移入してしまいました。そんな彼女が最後には自分の意志で「私の物語」を始めようとした場面は少しスッキリした気持ちになりましたね。
作中で深くかかわってくる「レゾンデートルの海」という映画では感情さえもデータとして処理される世界で、そのことに対して激しく抵抗する女性が出てきてます。三島はその女性に深く感情移入していました。これは、吉田に対する矛盾する想いを持つ自分と重ねたからなのかな、と。突き放してほしいのに突き放されるのが怖い、嫌いなのに惹かれる。そんな自分でも理解できない気持ちをデータ化できるわけがないという気持ちがあったのかもしれません。逆に映画の女性に感情移入できなかった吉田は三島の想いに気づくわけがないということなんですかね。
ちなみにレゾンデートルとは自分の信じる生きる理由、存在価値という意味のようです。
今作のあらすじを見て、「わざわざ三島の失恋話を書くなんてひどいなあ」と思っていたのですが、三島の恋愛物語をハッキリ終わらすことで、三島が次の物語に行けるようにする「やさしさ」だったのかもしれません。
次は後藤さんの話かな? 後藤さんさえOK出せば普通に付き合えると思うんだけどなあ。やはり沙優の存在が障害なのかな。
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