暴力的な世界で、悲惨な運命のヒロインを呼び出された勇者が助けるという物語。
勇者の中にそれぞれ魅力的な複数の人格がいたり、ヒロイン全員に性格が豹変する場面が合ったりとキャラクターの魅力が非常にありましたが、情報量が多かったり、推察しないといけない場面が多かったりと読むのに力がいる作品でもありました。
失われた英雄の呼び名を、この世界はまだ知らない。
世界を滅ぼす邪神の眷属への対抗手段である“遺物”。
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それを扱う才能を持たぬ【亜人】を純血人類たる【貴族】が従属させ、確固たる身分制度が敷かれた時代。
そんな千年後の世界に蘇った英雄・セロトは、人類の衰退ぶりに愕然としつつも、とある問題の解決のため、貴族の身分を得て、全ての叡智が眠るという【学院】に通い始める。
しかし、入学時の検査で遺物適正が最低ランクと判明。
劣等貴族と侮られることになるが、実技で実力の片鱗を見せていき……?
これは悪夢のような世界と、苦痛に満ちた虚構、そして闇を裂く微かな希望についての物語。
『幻想再帰のアリュージョニスト』の著者が贈る純血のハイ・ファンタジー。
残酷な描写が多かったと思います。スプラッターというよりは、人を人とは思わない残虐さでです。憎しみや悪意が溢れた世界というのが良く伝わってきました。
またその中で貴族による亜人への差別の苛烈さが目立ちます。この差別も単に見下すというレベルではなく、貴族の機嫌次第で亜人は殺されてしまうレベル。しかも、それが学校という教育機関で行われるというところに異常さが表れていました。
上記だけでも、大分重い雰囲気が漂います。
ポップな部分で言えば、ヒロインにより、名、姿、性格が変わる勇者という設定。基本的にヒロインの理想像が出てくるわけで、最初の時点から好感度が高いです。紳士的勇者×聖女、俺様自称神×暗黒面に堕ちた姫、クール眼鏡弟×超ブラコン姉など様々なカップリングが見れます。
この作品の魅力の一つと言えば、強烈な差別に対して主人公の勇者が反撃した際のカタルシス。ヒロインが全員差別される側の亜人なので、「差別に対する反撃」という形ができやすかったです。特にセロトという穏やかな性格の勇者が、あくまで相手を立てるという体裁をとりながら相手に仕返しするのは面白かったです。
あとは豹変するヒロインも魅力。ヒロインの一人であるミードは、しっかりした先輩が弟大好きブラコン姉になるという微笑ましい豹変でしたが、ほかの二人は明らかに暗黒面に堕ちていました。それぞれのヒロインの2面性が見えるのも面白かったです。
元々暗いシリアスなお話ということもありますが、読むのに相当力がいる作品でした。
①入り乱れる勢力。
基本的に亜人と貴族という対立構造なのですがそこに魔人という存在が入ってきたり、亜人の立場を復活させようとする教団の存在があったり、その教団の中でも穏健派と革新派があったりと個々の集団の関係性だけでも情報量が多かったです。
②ゴールが見えづらい。
敵側の狙いは何となく分かったのですが、じゃあ主人公側の当面の目標はというと正直はっきりしないまま読み進めていました。闇堕ちしてしまったヒロインを救うのか、竜を倒すのか、メシス(生徒会長)を止めるのか、全部やるにしても役割分担は?など。私に読解力がないからだと言われれば、その通りですが(笑)
③曖昧な表現で読者に考察する力が必要。
明確に結論が述べられないなとも感じました。読者に判断を任せるというよりは、読者に推察させようとしているような・・・。とくにセロトとメシスの関係はもう少し明確にしても良かったのでは?と思いました。いや、何となく分かるのですが、この1巻の中で一番重要なところではと思ったので、もうちょっとはっきりさせてほしいなと。
④多くの偉人、神話上の存在。
ここが読んでて一番エネルギーが必要だったかな(笑)。設定上、どうしても1000年前の偉人や神話上の存在が深く関係してくるのですが、その歴史を一から学ばないといけなく、またそれらの関係者が多いため、ここを理解しようとすると結構なエネルギーを必要としました。
関係性が複雑、情報量が多い、推察しないといけないことが多いとなるとやっぱり読むのに力がいりますね・・・。
キャラクターの魅力が非常にある作品でしたが、やっぱり結論が見えにくいと読んでて疲れてしまいました(笑)
個人的には考察したりするのは(得意かは置いといて)好きで、曖昧な表現も心地よい時があるのですが・・・。疲れる時と心地よい時の違いは何だろう?
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