私は「死にたい」という言葉を割と使ってしまう人間です。
もちろん本気の割合は少なく、「死にたい」の中には「逃げたい」の意味も多分に含まれています。
仕事の嫌なことから「逃げたい」
人間関係から「逃げたい」
だれにも頼れないから「逃げたい」
もう生きることから「逃げたい」
そんな時に自分を救ってくれる人がいたらどんな人物なのか?
どんなことをしてくれるのか?
そして―――どんな感情を抱くのか?
この作品は大なり小なり、誰もが思う「逃げたい」という気持ちが殊更強くなってしまった「特別」な少女と、その少女を救ってくれる「普通」の男の子の物語でした。
※ネタバレありです
飛び降りそうだった美少女を、幸せな日常へと導く青春譚。
陰キャでも陽キャでもない、カーストもそこそこの俺。
けれどある日、屋上でばったりと「神に愛された完璧な美少女」と
名高い三峰彩葉が飛び降りようとしているところに遭遇する。「放っておいて。私、もう死ぬんだから」
そんな彼女を止めて以来、二人で過ごす日々が始まった。空
き教室でピザを食べたり、夜のプールで花火をしたり。「私、
君といるのが楽しいのかも」「君のせいで死ねないじゃん」他
人の視線に怯えつつも、そっと心を開いてくれた三峰。“完璧
な自分”の仮面を取った彼女は、子どもっぽくも可愛くて――。これは悩める美少女を、平凡で幸せな青春へと導く物語。
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主人公やヒロインに好感を持てて、重たいテーマもしっかりと感じ取れたという感想が多かったです。一方、あまり話には入り込めなかったという意見もありました。
今作は、ヒロインの三峰が抱える問題が中心になっていきます。
三峰は誰からも好かれ、何でもできる優等生でした。しかし、その優等生を保つためには必死な努力があり、それを続けなければ周りの人たちに嫌われてしまうという恐怖がありました。
今、自分が好かれているのは優等生である自分。それを保つため自分を追い込む三峰。しかし、その好かれている自分は、本当の自分なのか?
三峰の張りつめた糸がぷつりと切れてしまい、自殺しようとします。
そこに現れた明るく、少し規則にルーズで優しい男子、A君が表面上おちゃらけながらありのままの三峰を受け入れ、死なせないように必死で関わってきます。
死なせないようにと関わるうちに三峰に恋愛感情が芽生えたA君。そして、そんなA君を「嫌われたくない」周りの人物とは違い、「一緒に生きていきたい」特別な人物に感じた三峰。
文字通り生死が関わっている状況もあり、恋愛物語に必須な相手を好きになる理由に対して説得力がありました。
「ずっと私専用の空気清浄機やらないと許さないんだからね」というセリフにも重みがありましたね。
一方、三峰の抱えている問題もそれの解決方法(人物)も序盤である程度分かったこともあり、物語の展開は割と予測できたので、特に驚きのある展開は無かったこと。
あと、二人の内面をどちらも描写し、しかもその内容が割と明確に書かれており、キャラの心情を考察する余地があまり無かったこと。
上記から、綺麗な話ではあったけどあまり入り込めなかったなという印象もありました。
特別なイベントが無くても、張り詰めた糸が切れて「逃げたくなる」心情を綺麗に分かりやすく書いてあった今作。
そんなヒロインを主人公が救う展開に説得力があり、最初から最後まで綺麗な物語でした。
1巻で綺麗に終わったので、続編は無いかな?
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