いや、全部伝わっているんだけどな?
今、話題になっている「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」。
割とハードル高くして読んだのですが、そのハードルを越えて面白かったです!
斬新な設定はもちろん、各キャラクターの魅力、読みやすさ、シリアスとコメディのバランス、全てが合わさって満足感の高い読後感になりました。
ヒロインのアリサの古き良きツンデレ的可愛さもすごく良かったですが、主人公の格好良さが一番目につきました。やっぱりラブコメは男主人公に好感が持てないとな~と改めて思いました。
「И наменятоже обрати внимание」
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「え、なに?」「別に? 『こいつホント馬鹿だわ』って言っただけ」「ロシア語で罵倒やめてくれる!?」
俺の隣の席に座る絶世の銀髪美少女、アーリャさんはフッと勝ち誇った笑みを浮かべていた。
……だが、事実は違う。さっきのロシア語、彼女は「私のことかまってよ」と言っていたのだ!
実は俺、久瀬政近のロシア語リスニングはネイティブレベルなのである。
そんな事とは露知らず、今日も甘々なロシア語でデレてくるアーリャさんにニヤニヤが止まらない!?
全生徒憧れの的、超ハイスペックなロシアンJKとの青春ラブコメディ!
ヒロイン(アリサ)が伝わるはずがないと思ってロシア語で話すデレを、実はロシア語が分かり全部伝わっている主人公(政近)。
ヒロインのツンデレを主人公が全部理解できるところが、この作品の特徴かなと思います。
また、そういう特徴があるからか地の分の視点が主人公視点になったりヒロイン視点になったりところころ変わります。第3者視点(神の視点?)とはまた違い、よりキャラクターに近い視点で各キャラに切り替わっていくため、各キャラの心情がより分かりやすかったです。
何より、キャラの魅力が際立っています。
政近・・・普段やる気は無いが、やるときはやるタイプ。表立って問題を解決するというよりは、裏工作・はったり等を使って人を上手く動かす。ひねくれ度の低い比企谷八幡のような感じ。いざという時に頼りがいがあり、最後の野球部とサッカー部とのいざこざで仲介する場面は挿絵も含めて格好良かったです!私が好きなタイプの主人公
アリサ・・・ロシアの血が入った容姿端麗なヒロイン。完璧主義者であり、周りとの温度差を過去に体験したことで周囲を下に見下す癖がある。自分でもそのことを悪癖だと思っており、そのような自分の態度から周りを頼ることはできないと思っている。典型的な強がりツンデレヒロイン。ただ、主人公に対して都合のいいヒロインというわけではない。
有希・・・ここまで完璧に2面性を使い分けるキャラは久しぶりに見た。もはや2重人格じゃないかと思う。学校にいるときは、余裕があり主人公やヒロインを軽くからかいながらも気品のあるお嬢様。プライベートで主人公にいる時は主人公を振り回す我儘な重度オタクとなる。素はオタクの方だと思いますが、お嬢様然としているときも楽し気に演じているのが分かります。これだけでキャラが濃いのに主人公とは名字が違う血のつながった妹という・・・。喰われないように頑張れ、アリサ!
濃い登場人物が多かったですが、そのような性格になった背景はしっかり描かれていたため(有希以外)、魅力がありながらも感情移入しやすかったです。
また、アリサが政近に好意を持った背景も詳細だったので、アリサと政近の関係も確実に入っていけました。
鈍感系、難聴系主人公の受けが悪くなり、とはいえ鋭すぎる主人公になると恋愛慣れしているような人物になるため感情移入が難しいというジレンマ。
解決策としては最初から付き合っちゃえば良いじゃんというものや、ヒロインの方が立場が上で自分の気持ちを上手く隠せる場合(からかい上手の高木さん など)などがあると思いますが、どうしても初心で素直になれないヒロインとの中途半端な関係(友達以上、恋人未満)というラブコメの完璧な公式を使いきれない気がします。
そこで今回、新たに出た解が「外国語でデレる」ということ。そして、実はそれを主人公は理解できているということ。これにより、”恋愛慣れはしていないけど、どうしてもヒロインの気持ちには気づいてしまう”という構図ができました。また、別にヒロインが明確に気持ちを伝えたわけではないということで、ヒロインの気持ちには気づいているけど中途半端な状況(友達以上、恋人未満)を続けられるというラブコメとしてはおいしい状況を続けることも可能に。
あと、相手の心を読めるなどのファンタジー要素を追加しなくていいことも、外国語でデレるというメリットの一つかなと思いました。
「外国語でデレて、それを主人公だけが理解できる」という設定が甘酸っぱい中途半端な関係のラブコメに大きなアドバンテージを与えた作品。いや~、まだまだラブコメの設定ってあるもんなんだなと思いました。
ただ、今作の一番の魅力はキャラクター。各登場人物が作中でしっかりと生きていることを感じられ、物語の都合で動かされていると感じる登場人物は(少なくとも私の中では)いませんでした。
個人的には政近がロシア語を理解できることを知ったアリサの反応を凄く見たいですが、あえて最後まで引っ張るのもいいかもなあ・・・。
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