その道を究めるのに最もふさわしい人物は?と言われれば、最も才能があり最も努力する人という陳腐な答えが浮かびます。(イチローとか、クリロナとか)。しかし、これが難しい。才能がある人は、もちろん、一握りだし、そんな人は努力しなくても周りより優位に立てるので、わざわざ辛い思いをして努力する必要がない。努力を続けるには、劣等感を感じる経験が必要なんだと思います。では、その劣等感を通じ努力の大切さを痛感している人間が、神から才能を与えられた人間に転生したら?
魔力がすべての世界で魔力の才能が全くない主人公が、対魔力の戦闘を極めた上で魔力の天才である暴君王女に転生するストーリー。粗暴であれど、決して自惚れることも油断することもなくひたすらに自分を磨き上げようとする主人公が魅力的でした。
おすすめ!!
これは――世界のすべてを蹂躙する“お嬢様”の物語。
神に愛されし美しき髪を靡かせ、少女は凶暴なる刃を振るう。王国随一の可憐な令嬢――だが、その中身は『野蛮なる牙〈サベージファング〉』の異名を持つ、最強の傭兵!? すべてが規格外なお嬢様の蹂躙が今始まる!
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前提としてこの作品の世界では、魔力が全てです。戦闘でも魔力による攻撃こそが全てと考えられ、武器による攻撃(槍、弓など)は軽視されていました。しかし、それらの武器でも人は殺せます。主人公のエンヴィルは魔力を持っていなかったため、魔力以外のすべての選択肢を使い野良犬の傭兵として戦ってきました。また、敵が魔力がないとエンヴィルを侮ることも利用していくことで、魔力を持つ相手を蹂躙していきます。
男なら嫌がる、侮られるというところも利用するところが器が大きくて好きです。
そんな彼が生の最期に目標としたのは暴君ミレーヌの打倒。
魔力こそが全てと考えてきたイルタニア国では膨大な魔力は神からの贈り物とされてきました。そして特に多くの魔力を持つ者はある身体的特徴を持っていました。
髪の色が朱の混じった白い髪になるのです。
その髪を持ったものは神の寵児とされ、特に王家の者からは特別扱いされます。そんな風にちやほやされたミレーヌは暴君の限りをつくしていき、ついに国民の怒りが爆発。エンヴィルも、国民の狂った怒りほどではないが、自分が育った孤児院を焼いた敵討ちにミレーヌの打倒に協力。ミレーヌ公開処刑の一歩手前まで行きます。
そこで隣国からの侵略が入り邪魔され、本当にミレーヌは神に愛されているのかと半ば絶望しかけたものの、その隣国の狙いの一つもミレーヌの殺害と知り、エンヴィルは苦笑します。やはり、神なんていないじゃないか、いたとしても全く信用ならない。そう思いながら、そのまま野良犬としての人生を終えます。
・・・のはずが、何故かもう一度目が覚めてしまいます。そこは豪華な部屋で、やたら怖がる使用人がいる場所でした。鏡を覗くと
そこには10歳くらいの美少女が立っていました!
過去に戻り、ミレーヌに転生していたのです。
神を全く信じず、神の恩恵を受けたものへの対抗策をずっと練り続けた男が、神に最も愛された女の子に転生してしまうという皮肉。
この皮肉が神から渡された才能に頼ることなく生きていこうとする第2の人生につながり、物語の面白さにつながっていきます。
TS(性転換)と呼ばれるシチュエーションですが、もともとは粗暴な性格をしているエンヴィルですが、割と世間体というものを理解しており(嫌々ながら)上品なお嬢様というものを演じ切ることもできました。ただ、本当に親しい者たちには自分の本性である男としても粗雑な口調でしゃべります。見麗しい令嬢が、上品な口調と粗雑な口調を使い分ける。
このギャップに滅茶苦茶魅了されました!
可愛いのとカッコイイのが交互にパンチを打ってきて、頭の中がくらくらしましたね!
そうは言っても、もとは男。男同士の恋愛に行ってしまったら多少抵抗が出てしまいます(私の器が小さいので・・・)。
そういうときこそ百合展開!
隣国の皇女であるコレットがミレーヌの男らしさ(?)に惚れてしまいます。このコレットも男顔負けの雄々しい性格をしており、戦闘狂でもあるのですが、ミレーヌと違って中身は女の子。ミレーヌに惚れた時には少女らしいしおらしい感じになりました。男から見てもミレーヌは男らしく格好いいので、コレットが惚れるのも納得。百合好きじゃない人も納得できる百合展開になっています!(?)
・・・一応、ミレーヌには男の相手として王子のアルベールもいるのですが、こっちはメイド服着せればその辺の女の子よりもよほど可愛いので、まあアルベールとくっつくのもそれはそれとして有りかなと思ってしまいました。
最初に、暴君を打倒するための民衆の暴走とそれを利用しての他国からの侵略から始まりますが、この展開で世界観にグッと引き込まれました。やっぱり物語の冒頭で世界観に引き込むのは、重要なんだなと感じました。
あとはやっぱり主人公の魅力。絶大な力や圧倒的な経験値を持ちながらも、絶対に油断することはなく周りを理解し利用しようとするしたたかさ。
転生最強ものだと、どうしても周りを見下したり、周りの常識を理解できずに進んで、結局何とか出来てしまうという展開になりがちだと思います。(それはそれで面白いですが)そうなると現実感がなくなるというか、ご都合的展開に感じてしまい緊張感が無くなります。
しかし、この作品ではそこのバランスを上手くとっており、主人公の魅力がより一層引き立っていました。
エンタメとシリアスがうまくバランスが取れた、すごく面白い作品だと思います!
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