うん、面白い!
素直にそう思える作品でした。
敵も読者も騙すというところは「スパイ教室」と同じですね。
スパイ教室が小説全体を使って騙しに来る作品なのに対して、今作主にムカつく敵を叩きのめすために多くの「騙し」を入れてきます。
「騙す」ということに関して、難しい理屈や言い回しを使わず、シンプルに騙してきたのが逆に説得力が増していた!
また、魅力的な主人公、ヒロインにムカつく敵役もしっかり用意して、騙す要素以外の部分でも十分に物語を楽しめる作品でした。
特徴
異能力者が絶対的な権力を持っている世界・学園で自分に能力がないことを偽っている無能力者が異常なほどの用意周到さと話術で戦っていくところが特徴だと思います。あと、主人公とヒロインの両方が無能力者であることも特徴。
真っ向勝負ではかなわない相手にどのように頭を使って、念入りに準備して、「騙して」倒すのか、どうしても、まずそこに注目がむく作品だと思います。
あと、割と純粋なヒロインが性根の悪い主人公に染まっていくところも見どころかも(笑)。
魅力
作品の肝になる相手を騙すと言うこと。ここに説得力を持たせる描写が、この作品の魅力の一つだと思います。
まず主人公は相手の情報収集を徹底するところから始めます。学園に入学する前に、自分のターゲットとなりそうな黒幕を全員リストアップ。それらの人物の背景を徹底的に調査し、彼・彼女らが主人公と初対面となる半年前には、主人公は彼らのことを詳細に知っているという徹底ぶり。
このような情報収集の徹底があったので、相手を騙す部分に凄く説得力がありました。
また、相手の異能が問答無用で発現するものではなく、発動条件があるのも良かったです。この設定で、相手の発動条件さえ知っていれば無能力者の主人公にも対抗する手段が出てきました。
そこに、能力の高い相当イラっとする敵を出すことで、そいつを(読者も含めて)騙し、罠に嵌め、完膚なきまでに叩きのめすのも魅力。調子に乗った(正確に言えば、主人公が意図して調子に乗らせた)敵が、策略にはまって無様な醜態を見せるのはカタルシスがあり、スッキリしました!
考察
詐欺師の主人公がヒロインにどのように心を許していくのかという部分で「共感」が重要になったと思います。
主人公のジンは幼い頃から詐欺の手段を学び、その手段で相手を騙してきました。そんな性格がねじ曲がっている(性根は優しいと思う)主人公が割と素直なヒロインにどうやって心を開くのか、ここに説得力を持たすのは結構難しいと思います。
今作ではそこに共感を用いたように感じます。
ある目的のために異能力者の学園に能力があると偽って潜入した主人公のジン。自分の家に見捨てられないために能力があると偽ってきたニーナ。立場は違いますが、決して他の人は体験していない似た秘密を共有したジンとニーナは互いに共感でき、違和感なく親密になれたような気がします。
考察②
今作の批判ではないのですが、ライトノベルで1巻から黒幕(裏切り者)を探す展開は難しいなと感じました。
推理小説であれば、事件が物語の主軸なので事件に関連する登場人物を複数人出すことで読者に誰が犯人なのか絞らせないことも可能ですが、主人公とヒロインのボーイミーツガールが主軸だと多くの登場人物をだすことが難しいように感じます。
主人公とヒロインと敵役の3人でストーリーのほぼ8割くらい消化するとなると、後出せる人は2人か3人くらい。そうなると、黒幕がいるとして誰になるのか、何となく見当が付きます。
今作で最後に意味深に登場した彼女も、私の中で何となく黒幕だろうなとは思っていましたが、それは作中の描写からの推理ではなく、「だって、他にいないもん!」という消去法でした。
まとめ
発売前のあらすじで、難しい設定だなあ、説得力をもたせられるのかなあ(何様?)と思っていましたが、相手を欺くためには周到に用意をするという当たり前のことを徹底してやることで、相手を騙すことの説得力をしっかり出していました。
「騙す」という設定を活かしながら、有能でひねくれているがカッコいい主人公にちょっと意地っ張りだけど優しくて可愛いヒロインがむかつく敵を倒すというカタルシスのある王道展開を凄く魅力的に描いており、凄く面白かったです。
おススメ!
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