―――アナタでは私たちの敵にさえなれないわよ
舞台はアメリカ合衆国をモデルにした国。一般人を洗脳し、大量の(使い捨て)暗殺者を相手に追い込まれていくスパイ組織「灯」。
今回は「ヒーロ―としてのスパイ」という矛盾した存在(それにしては映画などでよく見る存在)に対する一つの答えのようなものが提示されたような気がしました。
あらすじ
絶望の底にいるとき、英雄は駆けつけてくれる。
宿敵である謎のスパイチーム『蛇』の尻尾を掴んだクラウスは、その正体を暴くため敵の潜伏場所へ『灯』全員で向かう。しかし一同に待ち受けていたのは、恐怖渦巻く戦場に、想像を絶する強大な悪だった……。
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おぞましい「敵」
今回の敵の名前は、紫蟻。
対象に精神的、肉体的に痛みを与え続け脳の仕組みを変える。そして、その痛みを受けるくらいなら死んだ方がマシだという思わせるほど調教し、自分に絶対服従の暗殺者を一般人から作り出す。
私が思いだしたのは北九州連続監禁殺人事件を引き起こした松永。電気ショックを続ける罰により、家族同士の殺人ですら強制した異常者(専門家ではないので、正確な情報ではないかもしれません。)。
そのことを知っているからか、今回の敵は心底狂っているなと思いました。自分と同じ人間の自我を追い込むことに対して何の躊躇いも・・・それどころか何の感情も浮かんでいない様子。人間じゃないなと思いました。
そんな敵に対しての唯一の対抗馬がティアでした。
ヒーローとしてのスパイ
ティアには悩みがありました。自分が周りの少女たちに置いていかれている―――以前、帝国のスパイ(アネットの母親)を逃がしてしまったことに対する後悔からも自分のスパイに対する技量に疑問を感じていました。その悩みの根本にあるのは自分の憧れである「ヒーロー」としてのスパイ。
周りの少女たちのように冷徹に図太いスパイを遂行できず、自分の優しすぎて甘いスパイ像と現実のスパイとしての仕事の差に苦悩していました。最新作で作戦のために一般人を犠牲にできなかったイーサン・ハントを思い出しましたね。
そんな彼女が苦悩の先に出した答えが、「敵さえも許す」スパイ。
敵を利用するのではなく、敵を懐柔して味方にする。かつて自分の命を狙い、馬鹿にした「屍」でさえも味方にし状況を好転させました。ある意味、スパイとしてはチートな能力を彼女のやさしさ(そして色香)によって遂行しました。
「敵」にすらなれなかった紫蟻
自分の指示を完璧に遂行する手足を求めた紫蟻に対し、自分にはない発想や力で手助けしてくれる仲間を求めたクラウス。勝敗はこの違いで決しました。
不快にすら思っていた「屍」を仲間にするというアイデア。クラウスにはできなかったことをティアが可能にしたことにより紫蟻を追い詰めることに成功しました。
追い詰められた紫蟻が口から出した言葉は
「助けて、ください。」
「敵を助けるんでしょう?この男を説得してくれませんか?」
命乞いの言葉でした。その言葉に対してのティアの返答は
「私にも救うべき相手と、そうでない相手がいることは分かる」
「―――アナタでは私たちの敵にさえなれないわよ」
まとめ
スパイ像としては甘すぎるヒーローを目指すスパイ。その存在への答えを「敵を味方にするスパイ」という最強のスパイ像に昇華させたのは、「なるほど!」と思いました。
あえて重箱の隅をつくのであれば、個人的にはこれまでスパイ教室の醍醐味だったどんでん返しのトリックが、燎火のもはや超能力としか思えない予測(予知)能力でほぼ説明されたのがちょっと残念でした。それならば、燎火にそういう超能力があったとしてくれた方が、納得できた気がします。
その難癖を入れても、4巻も凄く面白かったです。
・・・ティアとグレーテによる泥沼の恋愛劇も見てみたい気がする・・・。
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