クール系ヒロインではなく、動じない系ヒロインというものが私には存在します。代表例としては「冴えカノ」の加藤恵でしょうか。(少なくとも表面上は)何事にも動じず、読者(というか私)が「ここは照れてほしい」という場面でもスルーします。「なんでだよ!動じろよ!照れろよ!堕ちろよー!!」という私の必死な願いについに応じた時(違う)のヒロインの可愛さは何倍にも感じられます。この作品のヒロインはそんな動じない系ヒロインの一人だと思います。
ヒロインが、自分に対して異常なまでの執着を見せる義理の妹とまともな関係性を作りたいという目的で恋人役を派遣する芸能事務所に相談するところから始まる物語。
恋人ではないのに、ラブラブな関係性を演じるという矛盾が面白く、また「演じる」ことを通じてキャラクターのより深い一面を知ることができる作品でした。
あらすじ
これはあくまで仕事で、カップル役の演技――のはずなんだけど。
“カップル派遣”――カフェで、水族館で、仲良しカップルを演じてみせるいわゆるサクラ業。役者を目指して始めたバイトだけど「鳴瀬くん、もっとギュッとしてもいい?」比奈森さんが相手役だと心臓がもたない!?
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ふとした時に起きる「攻守交替」
仕事として、ラブラブな関係を演じる主人公とヒロイン。基本的に純情な主人公があたふた照れたり動揺して、器の大きいヒロインがそれを受け入れます。別にヒロインは攻めている気は無いですが、主人公が受けに回っていることが多いです。
しかし、キャラクターの特徴上、たまにこの関係が逆転します。
主人公の鳴瀬は演技が大好きです。演技が上手いわけではないが、演技に対して真摯そのものであり、向上心も人一倍あります。そのため、恋愛に対しては初心だが、演技というものを通して相手(女性)の魅力をキザに見えるほど語れるという一面を持ちます。
一方、ヒロインの比奈森は、何事にも動じず器の大きい女性に見えます。演技の経験がないにも関わらず、鳴瀬とは違いラブラブな恋人という関係を臆せずに演じます。小さい頃の教育で自分の感情を外に出さず、常に「仮面」を被ることに慣れていた比奈森。しかし、内心は動揺していることも多く、主人公に堂々としていると評されることが多いが「仮面」をかぶっているだけと自嘲しています。(個人的には「仮面」を被れるだけ凄く強い人だと思いますが。)
そのような二人だからこそ、たまに(自覚なく)鳴瀬が比奈森の可愛さをキザに語り、比奈森がそれに内心滅茶苦茶動揺している場面で、私は気持ち悪いほどニヤニヤしてしまいました。
「演じる」ことによるキャラクターのより深い一面
オタク×美女、百合同士など様々なカップルを需要に合わせて送り出す霧島芸能事務所。それらを演じる演者は自分とは全く違うキャラ演じることが多いです。
普段は綺麗な彼女がいる爽やか青年が絶滅危惧種のテンプレオタクを演じたり、テンプレなオタクであるグルグル眼鏡の女性が絶世の美女を演じたり、実は乙女な女の子が女性の憧れである王子様を演じたりなど、ギャップが魅力的な登場人物が沢山いました。
しかし、その演じることは登場人物の心の新たな一面を見せます。
鳴瀬は終盤で男らしい彼氏の演技をします。その演技は本音を通じて演じており、比奈森に対して実際に感じている部分が見れ、鳴瀬の新しい一面が知れました。
また、比奈森の本音を隠した「仮面」を被った演技。本人は自分は愛される資格がないという位ネガティブに感じていますが、根底からくるのは比奈森の他者に対する優しい一面でした。
演じることを通じて、キャラクターの新たな本音の一面が見えてくるところが面白かったです。
まとめ
恋人でもないのにラブラブな恋人役を演じることになる―――そんな矛盾したやり取りをひたすらニヤニヤ読める作品。ヒロインも可愛く、主人公も不快なところがないため読みやかったです。
また、「上手く演じる」ことは全く別の自分を見せることではなく、それも自分の一部なのではないかというところは個人的になるほどと思いました。(・・・解釈あってるかな?)
個人的には比奈森の鳴瀬に対する好感度が最初から高いのは、後半の感情の落差が小さくなって勿体なくないかなと思いました。嫌悪感を示さないまでも、あまり興味がないくらいからスタートした方が最後「堕ちた」描写の時に「よっしゃー!」とガッツポーズ取りやすかったなと思います。
まあ・・・しかし・・・演技でも良いからこんな可愛い女の子とイチャイチャしたかったな(遠い目)。
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