「優しい冒険と少女の成長」浮遊世界のエアロノーツ 1巻感想

ライトノベル

私たちの愛する娘が、自分らしく、幸せに、生きられますように

大地がなくなり、島が空に浮かんでいる世界で、無人島に両親から置き去りにされ1部の記憶を失ったヒロインのアリアが、経験豊富な旅人である泊人と出会うところから始まる物語。

ファンタジー色が強く、特徴のある各島を渡り歩く冒険譚で、面倒くさがりだが根はやさしい泊人と「干渉力」という力を持ってしまったため今まで人の顔色を窺って過ごしてきたアリアが、各島の問題を解決していき、精神的に成長していく物語。

個人的には久々に心温まる気持ちにさせていただきました。

スポンサーリンク

あらすじ

この世界に大地はない――世界は一度ばらばらに崩れ落ち、人々は大地から切り離された浮遊島で生活をしていた。
 とある孤島で両親を待ち続けていた少女・アリアは、飛空船乗りの青年・泊人と出会い、両親を捜す旅に出る。
 世界を変える《干渉力》の才能を持つが故に人々から疎まれ、心を閉ざしていたアリア。自由気ままな飛空船乗りの泊人や、文化や価値観の異なる島の住人たちとの交流のなかで、少女は《風使い》としての力を開花させていく――。
 広大な空に浮かぶ島々を巡る、驚きと発見に満ち溢れた自分探しの旅。心躍るロードノベル開幕!

Amazon
スポンサーリンク

儚く優しい経験で成長するヒロイン

この作品では、その島ごとに物語があります。構成的に「キノの旅」に似ていますが、キノの旅が人間を皮肉る物語であれば、こちらは人間の温かみを感じる物語となっています。

例えば第3章の「繰り返しの島」。ひれきとうという隕石のようなものが島にあたることで、島は一度滅んでしまいますが、フィンという女の子の「干渉力」によって隕石が起こる数十時間前に戻ってしまいます。フィンは干渉力によって島の人たちから偏見の目を向けられており、ありていに言えば差別されていました。隕石衝突を防ぐためには島の人達の協力を得る必要があり、そのためにはフィンに対する偏見を解き、和解する必要がありました。そこで泊人とアリアは繰り返しの中で島民たちに干渉力を持つ者に対する正確な情報を与え、フィンに対する偏見をなくしていきました。このような努力もあり最終的には島民達の協力を得て隕石を回避することができました。

このようにハッピーエンドで終わったはずでしたが、実は既にフィンも含めた島民たちは死んでおり、フィンの魂が作り出していた幻であることが分かりました。泊人は既に気づいていましたが、島を出るまで気づいていなかったアリアは呆然として泊人に聞きます。「あの和解も幻だったの?」と。これに対し、泊人は「違う」と答えました。あれだけの人数の幻はフィン一人では作れない、島民全員の魂が干渉したはずだ。そうであれば和解は幻ではなく実際にできたのだ、と。しかし、確実なことは誰にも分からず、答えは読者に委ねられたように感じました。

個人的には、実際にフィンたちは和解できたのだと思います。死んだ後だとしても、フィンが今まで得られなかった幸せを得られたことはとてもやさしいハッピーエンドだと思います。(ただ、ひねくれものの私は、魂だけの1種の夢のような世界だからこそあれだけ綺麗に和解で来たのかなとも思います。)

また第4章では願いを叶えるために代償を払う島、アリアの両親が過去に訪ねた島に行きました。その島の管理者である幼いアルとカノは言いました。「アリアの両親は自分たちの幸せを願うため、アリアを見捨てた」。しかし、実際には「娘が幸せに生きられるように、残り僅かな自分たちの時間を代償にした」が事実であり、アルとカノが言ったことはアリアを試した試練でした。泊人との旅で自分らしく生きる強さを手に入れることができたアリアは、この優しく悲しい事実に正面から向き合うことができ、泊人のこれからの旅についていくという覚悟も決めました。

各島での儚くも美しいやさしさに触れたアリアは精神的に成長したんだなと感じることができました。

スポンサーリンク

予測させない展開

各物語では終盤で驚くべき真相が分かるようになる構成となっています。

とくに3章のフィンたちが既に死んでいたこと、4章で出てきた管理者アルとカノがアリアの両親であったことは非常に驚きでした。しかし、後から良く考えると予測できそうな展開だったのに何で頭から抜けていたのかなと疑問に感じました。

そこで上記の展開を予測させなかった要因は何かなというところを考えてみました。

まず、3章のフィンたちが既に死んでいたこと。

これは、それまでの物語で既に人が死んでいるような展開を予測できなかったのが大きいかなと思います。1章では精霊と人間の恋物語の成就 2章では恩人を殺したと思っていた男との誤解が解け、和解と文句のないハッピーエンドが続き、この作品で人が既に死んでいる展開になるとは思いませんでした。

またフィンのこれからの生き方にフォーカスしていたのも予測できなかった一因だと思います。この問題が解決したら、フィンはどうやって生きていくかの未来への不安と希望に目が向けられており、既に死んでいるという可能性が私の頭から消えていました。

次に4章のアルとカノがアリアの両親であったことを予測できなかった原因。

これは両親との関係ではなく、泊人との関係にフォーカスしていたからだと思います。アリアは泊人が居なくなるかもしれないことに動揺し落胆していましたが、泊人からの通信により心を立て直しました。ここで今のアリアを形成しているのは泊人との日々であり、両親と一緒に暮らした日々ではないことが強調され、そのアリアが未来に向けて歩き出したことで両親との関係には決着がついたものだと思い、両親の現在については頭にありませんでした。

物語のフォーカスを、隠された驚くべき展開と別の方向に向けることによって、予測させなかったのかなと考えます。

スポンサーリンク

まとめ

人間の成長、各物語の起承転結、伏線の回収などライトノベルというよりは一般小説を読んでいる気持ちでした。また、各物語が儚いやさしさに満ち溢れていて、久しぶりに心穏やかになった気がします。

また、全然出し惜しみしなかったなと。1巻のうちに、ヒロインのアリアの謎(なぜ両親から無人島に置き去りにされたのか)が解決し、また干渉者ゆえに心を開けなかった自分の気持ちを整理でき、自分らしく生きていく覚悟ができました。ここまで綺麗にヒロインの成長を1巻で描き切るのはライトノベルとしては珍しい気がします。

あとは泊人が抱えている問題。こちらは世界の存続と世界の謎につながる壮大なスケールになりそうです。今後こちらの話を主軸に置くとすると話が1巻の方向性とは違う方向に行きそうですが、はたして・・・

優しくてきれいな物語だったので、感想でふざけられなかったのが心残りです・・・


コメント

タイトルとURLをコピーしました