大量の獣と各国からの大虐殺により死に絶えた日本人。その中で数少ない生き残りとなった不死身の主人公。多国籍のキャラクター。神話の竜(龍)と竜殺し。そして生贄の姫。これだけの設定とド派手なバトルを1巻で詰め込みながら、主人公とヒロインが互いを好きになり、寄り添いながら次の物語へ進むという過程を見事に描き切った作品。
面白いのはもちろん、流石だなあと思いました。
滅んだ日本という設定と神話の竜がもたらす災厄
物語開始時には日本は滅んでいます。
原因は突如現れた大量の魍獣。これらの獣によってまず日本という国家が崩壊。そこで追い打ちをかけるように日本以外の国家が日本人を罪人だと認定、各国によるジェノサイドが始まります。これにより日本人はほぼ滅亡してしまいます。動画などでナチスドイツの歴史を見ることがあった私からすると、各国からの虐殺はよりリアルに感じ、より一層重い雰囲気を感じてしまいました。虐殺が終わった後も日本人に対する差別を主人公は手ひどく受けます。(作品内では詳細な描写は無かったのであまり胸糞悪い感情にはならなかったです。)
日本が滅んだという設定は、少ない日本人の生き残りである主人公やヒロインへの感情移入がしやすくなって、両者の心が近づいていくところも全く違和感なく読めました。
また物語により深く入り込んでいくのは竜の伝承。竜は新たな世界を作り、そして竜殺しの英雄に殺される話が世界各地に多くあります。今回の日本崩壊では8体の竜が出現しました。
この龍は違いますが。
竜には以下の設定があります。
- 生贄の巫女と呼ばれる女の子たちにより竜が出現する(竜=巫女?)
- 竜にはレガリアと呼ばれる世界を亡ぼすだけの能力を持つ。
- そのレガリアの能力を人(竜殺しの英雄)が持つことができる
- 条件は「生贄の巫女に愛されること」
竜殺しとなった主人公と生贄の巫女の一人であるヒロインは世界を救うため、残りの巫女を倒しに行くことになります。しかし、設定でレガリアを受け継ぐためには「巫女に愛されること」という条件があり、ライトノベルの展開としては主人公に残りの巫女が惚れていく展開もありなのかな。結構シリアスな作品だし、それはないか。
作品とはあまり関係ないですが、歴史も文化も違う各国で竜の伝承があり、似たような展開(生贄⇒竜殺し)になるのは面白いなと思いました。人間そのものに竜とういう造形への畏怖や憧れが自然と生まれる理由があるのかもしれません。浅学なのでわかりませんが。
それぞれが印象深いキャラクターたち
物語には非常に魅力的なキャラクターたちが出てきました。
中でも一番強烈だったのは主人公の妹である鳴沢珠依。
何を隠そう、日本を滅亡させたのは彼女の竜としての力。各国からの日本の虐殺を引き起こし、今度は各国への虐殺を図ろうとしています。目的は世界を亡ぼすため。一見、無邪気なナチュラルボーン悪意の塊に見えますが、その根底にあるのは兄への愛。「兄さまから愛されない世界など滅んでしまえばいい」と過去に言ったように、兄への歪んだ愛があります。
実の兄とくっついたエロゲオタクの女子中学生もいるから実の兄弟なんて気にしなくていいじゃん!ともおもいましたが、
そもそも実の兄弟でもない様子。こんな強烈なヒロインがそんなに簡単に諦めるとも思わないので、何か特別な理由があるのかもしれません。個人的にはブラッドサインの女王を思い出しました。
珠依が影のヒロインであれば、侭奈彩葉は光のヒロイン。
魍獣を手懐けることができる、こちらも生贄の巫女の女の子。幼少期の家族の記憶がないためか、ジェノサイド以降で寄り添った子供たちや手懐けた魍獣たちとの家族としての思い入れが深い。彼女に手懐けられた魍獣たちはペットのような愛くるしさがあり、猛獣ではなく魍獣と表現したのもこういうところなのかなと思いました。
地獄のような東京の中でも普通の人間らしい感性や優しさを忘れない女の子。生き残った日本人を元気づけようと始めた動画の視聴者が主人公だったというきっかけもあり、急速に主人公に惹かれます。
自分の容姿に対する自己肯定感が滅茶苦茶高いのはご愛敬(笑)
そして、このヒロイン二人から愛される主人公 鳴沢八尋
まず珠依に「愛される」ことで不死身の体を手に入れ、彩葉に「愛される」ことで炎の力をえた竜殺しの英雄。不死者として地獄のような東京で生きていかなければならなくなったため、一見冷たいリアリストのような態度を取るが、性根の優しいところは変わらず。妹以外の人を殺さないことで日本人としての誇りを守ろうとしている。
日本を滅亡させた妹 珠依を殺すことに躍起となっているが、言動の端々に妹への愛情も見える。
歴戦の兵士のように見えながらも、彩葉に対しての態度などは思春期の少年のように見え、そこのアンバランスさが魅力となっている主人公でした。
血の鎧で戦う場面は滅茶苦茶格好良かったです!
他にも物語を裏で操っていたべリト姉妹や、その部下たちであるジョッシュ、パオラ、魏洋などしっかりとした特徴と魅力のある登場人物がたくさん出てきてワクワクしました。
特に、ジョッシュ、パオラ、魏洋の3人は出てきた時「あと30ページくらいで死ぬんだろうな」と思ったら、普通に頼りになる仲間だったので、「すみませんでしたー!」と言いたくなりました。
まとめ
滅茶苦茶絶望的な状況から始まった今回の物語。ストライク・ザ・ブラッドと違って学生生活的なほのぼのとした会話や、かわいらしい修羅場などはあまり無さそうですが、代わりに苦しいほどの重い愛を感じられそう。
2巻も近々発売予定ということで、次巻が非常に楽しみです!
一番好きなキャラが、珠依の私はやっぱりヤンデレ好きなのかな・・・。
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