相変わらず人の感情に対する多彩で繊細な表現と、本格的なサスペンスが楽しめたユアフォルマ3巻。話の中にいつの間にか入り込んでいく感じがして、読んでいて気持ち良かったですね。
あとがきでもあったようにテクノロジーに祝福されていない人々の反抗が一つのテーマ。アミクスによって肉体労働を奪われた人々。ユア・フォルマによって最適職業が決められ自分の本当になりたい職業に就けなかった人々。そんな彼らがユアフォルマをはじめとするテクノロジーに対して、ネットの掲示板を通じて異常な宗教団体のように攻撃をしていくのが今回のストーリー。AIによって人の仕事が奪われていくと言われている私たちにも通ずる話でした。
物語としてはエチカとハロルドが改めてお互いの存在の大切さを認識していきます。エチカは電索官という役職を外れたことでハロルド以外にも自分に優しくしてくれる存在(人間)がいることに気づきます。ハロルドはエチカのもとを離れ、ライザという別の優秀な電索官のもとに行くことで自分の目的(ソゾンを殺した犯人を探す)のためには別にエチカでなくても良いことを確認します。しかし、ふとした時に考えてしまうのはお互いのこと。理性的に考えれば他の人(アクシス)でも良いのに、エチカはハロルドをハロルドはエチカを無意識に求めてしまいます。互いに特別なことを改めて認識した二人。ハロルドはその特別が何の感情か分かっていませんが、エチカはある程度推測できてるかな?
毎度おなじみサスペンス要素としては人の思考を読んでいるようにエチカたちの裏を行くEの存在が不気味で良かったですね~。そのEの正体も成長していく高性能AIと人間のコンビというのもなるほどと納得しました。ただ、人の思考を読む高性能AIの例としてハロルドを出されたのはちょっと違和感がありました。ハロルドはあくまで洞察力が優れているうえでの相手の趣向を読むのが得意なのであり、多くのデータから人の思考、行動を予測するEとはまた別なのでは・・・? 私の読み込みが足りないだけかもしれませんが。
あとは、やっぱり動揺するエチカが可愛いなあ!今回は特にハロルドをライザにNTRされる場面など芸術的エチカの曇りが見れて大満足。ハロルドには今後も思いっきりエチカを動揺させてほしいですね!
ちょっとネガティブな面としては過去に出てきた事件や名前などに対しての説明がちょっと足りないかな・・・。記憶力に乏しい私には「あれ・・・何の名前だっけ?」となって記憶から絞り出すのに時間がかかってしまいました。それと3巻目にして何ですが、世界観が分かりにくいな、と(笑)この話の肝であるユアフォルマにしても埋め込めば超能力が使えるとか分かりやすいものではなく、スマホのような情報端末を脳内に直接ぶち込むような感じです。(・・・ですよね?)。それが画期的なことなのは分かるのですが、じゃあ世界にどういう変化があるのかというと想像しづらいというか・・・。どういう世界になっているのか、ユアフォルマを埋め込まれた人はどういう価値観になるのかの説明が欲しいかな・・・。
エンタメという点ではちょっと物足りないかもしれませんが、多彩な感情表現で読者の心に静かに訴えかけてくる描写は流石。あとは不器用な美少女の曇り顔が好きな方はぜひ!
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