現実でラブコメできないとだれが決めた? 1巻 簡易感想 青春ラブコメは待つものではない、作り出すものだ!

ガガガ文庫

☆3.7

第14回小学館ライトノベル大賞 優秀賞受賞。2年連続でこのラノランクインという今勢いのあるラブコメライトノベル。どういう設定でラブコメをさせるかではなく、主人公が理想的なラブコメを作り出そうとすることに注目した、ちょっと異端な作品。なのに、立ちふさがる障害、友情、努力、勝利、そしてボーイミーツガール要素も入っている王道な展開が繰り広げられ、読んでて邪道なんだか王道なんだかよく分からなくなってきました(笑)。でも、面白かったです。

自分には異性を引き付ける特別な才能なんてない。周りには美少女幼馴染も母性型先輩も小悪魔後輩もいやしない。ではラブコメを諦めるのか。いや―――ないのなら作り上げてしまえばいい!・・・という本作。平凡(らしい)主人公の長坂がSNSや足で集めた膨大な情報を独自に作り上げたネットワーク上で整理し(ギリギリ犯罪じゃないレベル)、青春ラブコメ適正が高い人物をリストアップ、青春ラブコメの世界を現実に作り出そうとします。

中学時代に青春を送ろうとして失敗した長坂は、「徹底的に周りを調査し、自分のキャラクターもコントロールすれば青春を送れるはず」と考え、諦めずに高校で青春ラブコメを送ることに全力を注ぎます。完全に諦めて、人と関わることを拒絶した比企谷八幡とは真逆ですね。思えば、俺ガイルは初期から青春を否定しまくっていた青春ラブコメのアンチテーゼみたいな作品だったので主人公のベクトルが長坂とは真逆。そんな俺ガイルが長坂の「理想のラブコメ作品」に入ってたのは笑いました。

表舞台を青春ラブコメに作り替えようとするのが今作の肝なので、情報集めや印象操作などの裏方が重要になってきます。そんな裏方で偶然得た協力者の上野原と一緒に青春ラブコメを目指して試行錯誤していく。そこが一番青春していたように感じたのは作者の初鹿野先生の狙い通りなのかな、と思いました。

今作の特徴の一つとしてはヒロインが「強い」こと。ヒロイン力が強いのではなく、人間として強い。ヒロインの一人である上野原は何でもできる優秀な人間。単に頭がいいとか運動ができるとかではなく(いや、それもできるけど)、計画立案・人心掌握・コミュニケーション能力・突発的なハプニングに対応できる力などに長けており、今すぐ社会人になっても即戦力だよねというスペックの高さで長坂のラブコメ計画を大いに助けます。本人は特別にはなれない器用貧乏な自分に嫌気をさしていますが、諜報機関で働けば一流のスパイになれるのでは? 

もう一人のヒロイン清里は表向きラブコメの絶対的ヒロインのような完璧な可愛さやあざとさを見せ、長坂の中でぶっちぎりのメインヒロイン候補となります。しかし、心中は誰とも深くかかわることを避けて「普通」に暮らすことを望みます。普通をぶち壊して最高の青春ラブコメを作り出そうとする長坂に対して敵意すら持っており、クラス全体の人間関係を巧みに操って、協力者である上野原を嵌め、脅しをかけようともしました。

こんなヒロイン力とは全く関係ない方向に力を持っている二人の最後の掛け合いは、一流スパイ同士の駆け引きのようで悪寒が走りましたね・・・。ただの高校生同士の会話で、大げさな感じもなく、ここまで緊張感を持った会話が繰り広げられるのは凄いなと思いました。

そんな強力な個性を持つヒロインたちに対し、主人公の長坂も強烈な個性は持っているのですが読者による好き嫌いは大きそう。基本的にポジティブで真っすぐなのですが、向かう先がラノベのような青春ラブコメなのでイタさも伴ってしまうところを受け入れられるかどうか。物語の主人公以外の人物がどちらかというとリアルよりなので、長坂の言動のノリにちょっとついていけないこともありましたね。(その調整役として上野原の冷静なツッコミがあると思いますが)。個人的には最後の上野原が巻き込まれた問題は、もうちょっとスマートに解決してほしかったかなあというのがあります。あと、実は青春ラブコメを目指す本当の理由として心の中には凄く暗い闇がある、みたいな感じだと私の好みだったんですが・・・。暗い過去はありましたが、青春ラブコメをめざすのはあくまで前向きな理由でしたね。

ライトノベルの中では比較的リアルな人間関係の中、主人公が裏で下準備をして青春ラブコメなハッピーエンドを作り出そうとする物語。コメディとシリアスのバランスも良く、凄く読みやすい作品でした。主人公のノリについていけない部分があったと書きましたが、逆に言えば付いていけなかったのはそこくらいで、割と難しい設定の割に不自然に感じる部分が少なかったのも良かったです。あと最後の強すぎるヒロインたちの会話はかなりのお気に入り。

しかし、長坂が例に出したラノベのラブコメ作品は半分しか分からなかったなあ・・・。半分分かれば異常なのかな?


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